ぜんそく征服ジャーナル

171号

親代わり療法      久徳クリニックが行っている「親代わり療法」について



■学習入院療法とその限界

久徳クリニックでは、重症難治性喘息、不登校、自宅への閉じこもり、働けない青年たちの根本療法として「学習入院療法」を行っています。(表1)

学習入院療法は、ホームシステムの病棟で生活療法を実行することにより、本人の社会適応性をのばすことを第一の目標としています。不登校の子なら登校を再開することを当面の目標とし、働けない青年であれば、とりあえずアルバイトをはじめる事を当面の目標とします。

本人が頑張りはじめたら、平行して家族へのカウンセリングを行い、家族、親子関係を調整します。家庭での「受け入れ体制」を整えなければ、退院して自宅へ帰ることが不可能だからです。

この受け入れ体制がしっかりしないままに退院してしまいますと、不登校の子の場合など、入院中は元気に登校できていても、家に帰ると次の日から登校できなくなってしまう事も珍しくありません。この「家に帰ると再発する傾向」は、閉じこもりだとか、働けない青年の場合にはさらに強く現れます。

クリニックで自立する為の力をつけ、アルバイトに行けるようになったからといっても、生活の場が学習入院をしているクリニックだから働きにいけるのであって、家庭にそのまま帰ったのでは、また働かなくなる危険のある子が半数くらいを占めます。

これらの、入院していれば登校や仕事に頑張れても退院すると元に戻ってしまうような患者さんの中にも、腰を据えて2〜3年程入院して生活療法を続けられれば、立ち直る可能性があるケースも珍しくはありません。

数ヶ月の学習入院中には働くことのできなかった人の中にも、半年〜1年、あるいはクリニックが親代わりになって2〜3年も生活すれば社会的にも自立できる可能性のある人たちは大勢いるのですが2〜3年も入院しながら働くなどということは、現在の医療制度では不可能ですから、原則として半年程度の入院後は、再発のおそれがあっても、退院して自宅からの通院治療に切り換えていました。

表1 学習入院療法

@人間形成の歪みに由来する心理的不適応状態が疾患の背景に存在すると考えられる、心身症、神経症、重症難治性気管支喘息、登校拒否、閉じこもり、不就労成人などの短期入院総合根本療法である。

Aその基本的概念は、家族関係をも含む患者の生活環境を整えることにより、不適応状態の早期改善をめざす、「環境調整療法」である。

B必要に応じ家族(母親または両親)も患者とともに入院し、病棟スケジュールに従って生活する。

C患者および家族は、生活を共にしている医師、ケースワーカー、看護婦から、直接に生活指導をうけ、人間形成障害の概念、本人の状態、治療方針、家族関係の調整などについて学習する。

D病棟生活そのものが、社会性を高めるための「集団生活環境」として機能し、その生活環境への反応の結果、本人の社会性が高まる。

■「親代わり療法」
そのような人たちに対しての全く新しい試みとして、クリニックのスタッフが親代わりとなって、半年から数年をかけて本人の自立を促すことを目的とした「親代わり療法」という方法が考えだされました。

久徳クリニックでは、今までに2つのパターンの「親代わり療法」を実施してきました。1つはクリニックの近くに患者さんが下宿して生活する形のもので、もう1つが「人間形成塾(ヒューマンアカデミー)」です(表2)。

ここからは前者を「親代わり療法」、後者を「ヒューマンアカデミー」とよぶことにします。

親代わり療法はクリニックの近くにアパートを借りて生活をし、そこからアルバイトに行きながら自活していくだけの自主性、自立性を身につけていきます。

学習入院療法と親代わり療法との大きな違いは、学習入院療法が比較的短期間のうちに本人のたくましさをのばし、親子関係の歪み、家族関係を好ましい形に調整し、家庭への受け入れ体制を整えることにより、家庭での本人の人間形成の充実を図るものであるのに対し、親代わり療法では親子、家族関係の調整を優先するのではなく、本人を好ましくない親子関係から一時期離断する点にあります。

自宅に戻ることは当分考えませんから家族への指導は大幅に緩和されますが、日常生活の管理と生活指導はクリニックのスタッフが行いますのでその分だけスタッフの負担は大きくなります。患者さん側もしっかり働けば収入はあるというものの、下宿代、生活費などの負担が必要になりますから、すべてにおいて負担の大きい治療法といえます。

■親代わり療法の治療効果
このように、親代わり療法は負担の大きい治療法ですから、同時に大勢の患者さんに実施することはむずかしく、例えば昭和54年の開院から平成2年までの11年の間にこの治療法を実施した患者さんは28名にすぎません。

ただ、治療効果は非常によく、28名中22名(78.5%)までの患者さんが改善しています。その内訳は、健全に社会適応できるようになった人12名(42.8%)、多少の不安はあるもののほぼ健全に社会適応できるようになった人4名(14.3%)、日常生活は普通にできるようになった人6名(21.4%)でした。短期の学習入院療法では十分な治療効果の上がらなかった患者さんであっても、親代わり療法は、その約8割までに効果が現れるのです。

医療機関にも患者さん側にも負担が大きいのが難点ですが、理想的に実行できれば親代わり療法は不登校、自宅への閉じこもり、働けない青年たちなどへの相当効果的な治療法になります。このことは今までに何回にもわけて日本心身医学会などの学会で発表してきました。

■「ヒューマンアカデミー」
「親代わり療法」が効果的な治療方法だと分かっていても、不登校や高校中退などの未成年者や女性に対しては実施することが困難でした。そのため「自宅に戻せないから、預かってくれる親類はないか」とか「住み込みで働ける適当な職場は見つけられないか」などと頭を悩ませるようなケースも多くなってきました。

親も家庭も受け入れる自信がないけれど、長期にわたって人間形成を充実させれば成熟した人間になれる患者さんに対しての受け皿として考えだされたシステムが、「人間形成塾(ヒューマンアカデミー)」です。

親代わり療法のように個別に下宿させるのではなく、大家族のように患者さんが集団で生活する寄宿舎のようなシステムをとっており、ヒューマンアカデミーで1〜2年生活すれば、自動的に親代わり療法の内容はすべて実行することができ、総合的な人間形成の充実のためには非常に効果があることが証明されました。

ヒューマンアカデミーの治療効果を表3に示します。学習入院でも十分な効果が上がらず、親代わり療法も実施不可能であつた患者さんであっても、22名中著明改善が12名(54.6%)、改善が5名(22.7%)、やや改善3名(13.6%)、不変2名(9.1%)、という結果でした。

現在ヒューマンアカデミーはスタッフの都合により休塾中ですが、最近クリニックを受診される人たちの中には、ヒューマンアカデミーのような所があればより効果的な治療が行えるのではと思われるケースも少なくありません。久徳クリニックでは、もう一度ヒューマンアカデミーを再開したいと考えています。

表2 人間形成障害治療システム

@外来診療 
本人および家族へのカウンセリング、生活指導、心理療法を行う。本人、家族の適応行動を修正し、親子関係・家族力動の調整と改善を図る。

A学習入院療法 
親子で入院生活を送ることにより、好ましい生活習慣、家族力動についてのより現実的・実際的な体験学習を行う。

B親代わり療法1 
患者は親元を離れ(両親離断)、クリニックの近くに下宿して自活しながら出動、通院する。親子関係・家族力動の調整は行わず、医療スタッフが「親代わり」となって患者の生活指導を行い、人間形成の充実を図る。

C親代わり療法2(人間形成塾・ヒューマンアカデミー) 
親、家族、家庭に代わる大家族制の集団生活環境を整え、両親離断療法、環境調義療法、親代わり療法を実施する。




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