人間形成医学ってなに?


私たちは、医学は「身体医学」「心身医学」「人間形成医学」の三つに分けられると考えています。そして久徳クリニックの専門外来では「人間形成医学」の考え方に沿った診療が行われています。
人間形成医学は久徳クリニック独自の考え方ですが、ここではこれら三つの医学の違いについて説明します。

「第一の医学」としての「身体医学」
一つ目は「身体医学」といって、病原菌や臓器の異常によって引き起こされる「体の病気(身体疾患)」を薬や手術などの医療科学や医療技術で治す医学です。
ヒポクラテスの時代からこの医学が人類の健康を支えてきました。その意味では全ての医学の基本であり「第一の医学」ということができます。

身体医学は19世紀以降著しく進歩しました。ペストやチフス、結核や天然痘などの感染症は激減し人類の寿命は大幅に長くなりました。そして近年では臓器移植のみならず、iPS細胞による臓器再生や遺伝子治療なども現実化しています。このような理由で現在でも身体医学が医学の中心で主流であることは間違いありません。

しかし病気の原因は病原菌とか臓器の異常だけではありません。心(ストレス)が原因で体に症状が現れる病気もあります。これらの病気は「心身症」と呼ばれています。気管支喘息、咳喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、過敏性腸症候群、起立性低血圧、メニエル症候群、慢性じんましんなど、何十種類もの病気があります。

「第二の医学」としての「心身医学」
心身症を治療するためには、患者さんの体だけではなく心の治療も必要になります。この「心理面にも配慮しながら体の病気を治す医学」を「心身医学」といいます。
一つの病気を患者さんの心身両面から治療するのですから、「体の診察」が主体の身体医学よりも全人的医療に大きく近付いたといえます。このような理由から私たちは心身医学を「第二の医学」と考えています。

心身医学の「治療の三本柱」は、「交流分析」という心理分析法(カウンセリング)と「自律訓練法」(心身のセルフコントロールを身につける治療法)と「認知行動療法」(生きる姿勢の調整)です。これらの治療技術を用いて患者さんの症状の背景にある「生きる姿勢と人間関係の軋轢」をも診察するのが心身医学の治療になります。

心身医学の治療は「心療内科」で行われます。「話が長くて薬は少ない」形になるのが心療内科の治療の特徴です。この点において現在の精神科の治療とはかなり異なります。
現在の精神科は「メンタル不調は脳という臓器の異常が原因」と考える「生物学的精神医学」が主流であり、カウンセリングよりも薬で症状を抑える治療が主流になっています。交流分析や自律訓練法、行動療法などはほとんど行われていないのが現状のようです。
そして近年では心身医学を正式に学んでない精神科の医師が「患者さんが受診しやすいように敷居を低くする」目的で心療内科を標榜する(看板に掲げる)という好ましくない現象も一般化してしまいました。
心療内科と精神科の違いについては、「トップページ→よくある質問」の「心療内科と精神科の違いを教えてください」などもご覧下さい。

心身医学には50年以上の研究の歴史がありますが、心療内科が「診療科名」として正式に認められたのは平成8年のことですから、本格的な教育の歴史はまだ浅いといえます。ですから現在でも日本心身医学会が認定した心療内科専門医は数少なく、全国でも300〜400人ぐらいしかいないのが現状です。

「たくましさを診る医学」が喘息を治すことができた。
久徳クリニック前院長の久徳重盛は昭和35年から名古屋大学小児科のアレルギークリニックで「小児気管支喘息の総合根本療法」の研究を始めました。そしてその研究を通して、喘息の原因はダニでもホコリでもアレルギーでも大気汚染でも遺伝でもなく、体内のアドレナリンとステロイドという二つのホルモンの働きの良し悪しが喘息の発症や増悪に関わっていることがわかってきました。

この二つのホルモンは、喘息の発作を抑え、アトピー性皮膚炎の湿疹を抑え、アレルギー反応を抑え、アナフィラキシーショックも抑える作用を持っています。そしてこれらのホルモンは「闘争と逃走のホルモン」とも呼ばれ、「人間の心身のたくましさ」とか「生きるたくましさ」を司るホルモンでもあります。
この二つのホルモンの働きの良し悪しが喘息やアトピーになるかならないかを支配しており、働きの良し悪しを左右する因子は、0〜3〜6の生活のあり方にあるということがわかってきたのです。

またこれらのホルモンは喘息やアトピーを抑える薬としての効果もあり、これらのホルモンを人工的に合成した薬が喘息発作を抑える治療(対症療法)に用いられます。アドレナリン系の薬がメプチンやホクナリン、セレベントなどで、ステロイド系がプレドニン、フルタイド、パルミコートなどです。これらの薬を使って喘息発作を抑え続ける治療が、ガイドラインで推奨されている「喘息を管理する治療」になります。

しかしながらこれら二つのホルモンはもともと体内で分泌されているホルモンなのですから、人工的に合成して体外から補わなくても、体内での二つのホルモンの働きを改善させれば喘息発作を抑えることができるはずです。そしてこの体内での働きを継続的に改善させられれば喘息やアトピー性皮膚炎を「治す」ことも不可能ではなくなります。

名大アレルギークリニックではこの考え方に沿って小児気管支喘息の総合根本療法を開発し、昭和35年から本格的に治療を開始しました。喘息に対するハウスダストの減感作療法を日本で初めて実施(昭和37年)したのも名大アレルギークリニックです。総合根本療法の詳細については「トップページ→総合根本療法・喘息ってどんな病気?」をご覧下さい。

そしてこの総合根本療法は驚異的な治療成績をおさめました。

昭和43年の京都市学校保健研究会の調査によれば、東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸・北九州の七大都市における小児喘息の有病率(調査人員142万人)は、名古屋市以外の六大都市の平均が1.38だったのに対し、名古屋はその半分の0.73でした。名大アレルギークリニックが名古屋市内の小児喘息をそれこそ「片っ端から」治してしまっていたのです。
また昭和47年の愛知県の調査(1/5抽出)では喘息による長期欠席患者は県内で2名に過ぎませんでした。県内の重症小児喘息の相当数を改善させていたことがわかります。この名大アレルギークリニックの業績に対して、昭和38年に「中日学術奨励賞」が贈られています。

「第三の医学」としての「人間形成医学」
この「気管支喘息の総合根本療法」の開発を通して、久徳は「人間の性格や体質面での『たくましさ』はどのようにして作られるのか」という研究を進め、昭和40年頃に「人間形成医学」という考え方を発表しました。

この医学は「生育環境(地域・家庭・家族・家庭・地域・教育・経済・国家)が子供の人間形成(=心身のたくましさの形成)にどのような影響を与えるのかを考える医学」といえます。
そして患者さんの性格と体質がどのような経過でどのような状態に作り上げられたのかを分析し、症状との結びつきを分析して、「症状に結びついている心身両面の生活習慣」を調整することにより症状の改善から根治を目差します。この治療法を久徳クリニックでは「生活療法」と呼んでいます。

心身医学が患者さんの内部で起きている「心と体の相互作用」を治療するのに対して、人間形成医学では、「患者さんはどのように生きてきて(成長して)どのように環境に適応して(生活して)どのようなストレス状態になっているのか?」という、「患者さんの生きる姿勢と周囲との関わりのあり方(=相互作用)」を治療対象としています。そして患者さんの「生きる姿勢」は患者さんの「成長過程の結果」でもありますから、人間形成医学は「患者さんの成長過程・人間形成・生きる姿勢」を診察・治療する医学ということになります。

この医学の立場から「生きるたくましさ」というキーワードに沿って治療を行えば、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、夜尿症、不登校、新型うつ、引きこもり、拒食症、パニック障害、適応障害、社会不安障害、境界性性格障害などの病気や異常についても、その全体像の把握も難しくなく根本的な解決策を立てることも困難ではなくなりました。むしろ容易になったといっても過言ではありません。
このような考え方から、私たちは人間形成医学を、身体医学と心身医学を抱合してさらに発展させた「第三の医学」と考えています。

更に詳しくお知りになりたい方は下記の書籍などをご覧下さい。

【一般向け啓蒙書でおすすめのもの】
  久徳重和「人間形成障害」祥伝社新書,2012.
  久徳重盛「病める現代と育児崩壊」中央法規,1984.
  久徳重盛「母原病」サンマーク出版,1979.
【学術的専門書】
  久徳重盛,吉田宏岳,安藤順一郎編「家庭管理」保育叢書26,福村出版,1981.
  久徳重盛編「精神衛生」保育叢書23,福村出版,1982.
  並木正義編「現代社会にあえぐ子供たち」カレントテラピー,1985.
  並木正義編「生涯各期の心身症とその周辺疾患」診断と治療社,1985.

更に専門的に深くお知りになりたい方には文献検索をおすすめします。キーワードは久徳重盛または久徳重和で検索してください。ただし文献をダウンロードするためにはユーザー登録と利用料が必要になります(国立情報学研究所の文献検索はこちら)。