■人間関係は絶対に便利にはならない  

こうみてくるとわかるように、3歳から6歳までの育て方が非常に大事なんです。「三つ子の魂百まで」という言葉は、子供の三つ子の魂が大事だということだけではなくて、お母さんが成熟した親になる準備段階が3歳あるいは6歳までという意味なんですよ。ですから、6歳までに子供をしっかり育てて、前向きで生き生きした親子関係を築くことが大事です。そうすれば、子供は健全に育って、非行や暴力などの問題行動に走ったり、杜会適応障害を起こすという可能性は非常に少なくなる。つまり、6歳までに子供を上手に育てれば、いまの日本にいっぱいある育児の落とし穴に落ち込まないで、無事に通りすぎていける健全な親子になれるわけです。

そのためには、なんといっても、お母さんの役割が重要なんですね。愛情をもってしっかり育てなければならない。しっかりというのは、動物として正常な育児ということです。育児本能が正常な場合には、子育てが楽しいはずなんです。なぜなら、子育てというのは、食欲や性欲と同じで本能だからです。本能というのはもともと楽しいはずのもので、昔の親は子供に手をかけることが楽しかったんです。生きがいでもあった。だから、できの悪い子や手のかかる子ほどかわいいと。

昔は「脳性小児麻痺の子供は家の宝だ」という言葉があったんです。どうして宝かというと、その子は大人になっても自分で生きていけない。だとすれば、家族全員が気持ちを合わせて、経済的にもある程度蓄積して、その子が生きていけるようにしてやらなきゃいけない。そのために、家族の団結もしっかりして家業が栄える。とにかく昔の親は子育てに手がかかることは当たり前だし、生きがいだと思って子供を育てていた。だから、成熟した親になれたわけです。

成熟した親の特徴は本能的直感で、子供の実情に合わせて子育てできるということです。一つはほめて、おだてて、やる気にさせる。もう一つは荒々しく、生き生き、楽しい気持ちにする。それからあとは最小限度のけじめを教えることです。ダメなことはダメという。こういう育て方をしますと、子供が親に愛されているという気持ちを持つので、いい親子関係が築けるわけです。

ところが、経済が豊かになると、親がダメになるという落とし穴があるんですね。

なぜかというと、豊かになると機械とか道具が発達して、炊事も洗濯も便利になる。

そこで人間はつい愚かな判断をしてしまって、人間関係も便利になったほうがいいと思うわけです。人間関係なんて絶対便利になりません。ところが、母親は便利な育児がいいし、手がかからない子供がいいと。

そうなると、このお母さんは子育てに手がかかるのが嫌だと思う。もっというなら、いないほうがいいということです。

これを子供に対する消極的敵意というんですが、ここが運命の分かれ道なんです。

子供を育てるのが嫌だと思っていると、未熟な親のままで、どうしていいかわからなくなる。親がそうなると、他の動物の場合は、自然淘汰で子供がみんな死んじゃうんです。だけど、幸か不幸か人間だけは死なないんですよ。知能が発達しているために知能でカバーするからです。それを知的育児というんですが、知的育児なんて頼りになりません。セックス不能症の人がいくら頭を使ってもセックスできないのと同じことです。

結局はどう育てていいかわからないので、ガミガミいう、殴る、蹴飛ばす、殺すといった積極的な敵意が出てくる。積極的な敵意をもって子供を育てますと、子供からみたら決していい親じゃないので、親子の関係は変になる。子供は親に愛されていないんだと思う。そんな親が叱ったりすると、やっぱり親は自分が嫌いだから叱ったんだとかいうかたちで、親子の間にさらに溝ができてしまうわけです。そうなると、子供は親のいうことを聞きません。なにかいうと、親を憎むようにさえなってしまう。そこで事ごとに反抗したり、問題行動に走っ たりしてしまうわけです。

子供というのは、反抗したり問題行動をしていても、実は、普通になりたいという気持ちが心の底にあるんですよ。その気持ちを大事にして導いていけば、子供のほうはかなり立ち直るんですが、問題はむしろ親のほうなんです。「指導しがたい親」という言葉があるんですが、子供はまだ治せるけれども、大人のほうを指導しようとすると非常にむずかしい。なぜかというと、間違った子育てをした歴史がもう15年もあるので、それが脳にしみ込んでしまっている。だから、他人から話を聞いて自分で治そうと努力しても、なかなか治せないわけです。さらにいうと、愛情が少ない親が多くなったので、昔のように、命を懸けてもこの子を救うために努力しようということが少なくなって、「そんなに親が努力しなきゃならないんだったら、もう子供は諦めます」と、子供を見捨てる親が多くなった。

だから、問題のある子供が増えたともいえるんです。


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