子育て・教育応援誌『灯台』 /2003年2月 株式会社第三文明社発行



 院長  久徳重和



■適応障害型ひきこもりとは

ひきこもりや不登校は、社会や学校などの集団に適応する能力に何らかの問題があるために起こります。
日常的な生活環境の中で「上手に生きていくことができない」ために自信をなくし、集団から引いてしまって孤立してしまうのです。

不登校のピークは、小学校の高学年から中学生ですが、そうした心のありようが、それより上の年齢で表れるのが「ひきこもり」です。ひきこもりの青年たちの八割は不登校や中退の経歴があるのですが、症状が表れる時期の違いであって、基本的には同じものと考えるべきなのです。

ひきこもり・不登校といっても、実際には原因はさまざまです。先天的な発達障害、例えば知的障害や精神病によるものや、非行・怠学などによるものもありますが、ここでは「学校(会社)には間題がない」「自分も行きたい」「しかし行けない」という適応障害型のひきこもり・不登校についてお話をしたいと思います。

動物には、生まれた時から一人前に行動できる種類のものと、生まれてから一人前に育っていく種類のものとがあります。前者の代表的なものはカメやワニなどであり、ほ乳類は後者です。そして人間は約15年をかけて一人前の大人に成長していく動物なのです。

ですから、不登校やひきこもりについての理解を進めるためには、「人間の本能、性格、体質、社会性などは、どのようにして作られるのか?」ということを考える医学が必要になります。私たちは、その医学のことを「人間形成医学」と呼んでいますが、この医学の立場に立てば、不登校やひきこもりについて理解することは、それほど困難ではありません。

不登校やひきこもりの問題は、単に「学校に行かない」とか「働かない」ということではないのです。成長過程における「大人になるためのトレーニング不足」により、たくましく生き抜くための適応能力が成熟しておらず、そのまま成長すれば、将来にわたって一人前の大人として暮らしていくことが困難になる状態に子どもが「育ってしまっている」のが問題の本質なのです。

この「親・家庭・社会などの文化的環境(養育環境)の歪みに由来する適応行動の成熟障害」を、私の父、久徳重盛は「人間形成障害」と命名しました。


■成長の段階別ポイント

人間は生まれてから6歳までが「人間の基礎」、6歳から15歳は「成人の基礎」をつくる時期となります。健全な大人へ成長させるためには、人間の性格や体質が作られていく過程と、成長の段階ごとの適切な育て方を理解することが大切です。

以下、成長の段階ごとに、ひきこもりにさせないためのポイントを、人間形成医学の観点からお話ししましょう。


◆0〜1歳……「お母さんはいいもの」という感性を作る時期です。1歳まではお母さんのおなかの中にいるのと同じですから、母子べったりでいいのです。見つめ触れ合い語りかけることで「お母さんはいいもの」を覚えます。この感性が育てば人見知りをするようになります。

◆1〜3歳……「仲が良いことはいいものだ」という感性を伸ばす時期です。特に必要なことは「夫婦仲良く気が合っていること」「笑顔の会話とやさしい気持ち」「活動的でにぎやか」です。家族愛や親子愛、また近隣愛や愛国心などの「愛する力」を養う時期でもあります。

仲間以外には危ない人間もいることも覚えます。仲間とそれ以外を見きわめる能力を身につけることは、人間関係を築く基本能力になります。人付き合いの加減がわかることにも通じます。ひきこもりや不登校を防ぐためには、この能力を身につけることが一番大切なのです。

この時期に、夫婦が気が合わず子どもの目の前でケンカをしたり、親からガミガミ言われるような、攻撃性のある家庭で育つと、子どもは萎縮してその能力が育たないばかりか、逆に人間というものは信用できず緊張するもの、という感性が育っていきます。これが大人になってからのひきこもり、対人恐怖の原因になります。

◆3〜6歳……「頑張ることはいいこと」を覚える時期です。「大変でも面倒でも、やることはやろう」が身につくように扱うことが大切です。また、この時期にほめられずに育つと、自己評価の低い子どもになります。第一反抗期でもありますが、大人の真似を始める時期でもあるので、いろいろなお手伝いをさせて、「ほめておだてて、頑張らせて、得意な気持ちにさせて、自信をつけさせる」ようにしてください。

◆6〜10歳……大人の基礎を作る時期です。スポーツで言えば、練習試合の前に技術の基本を覚える時期です。家の中でもまれる時期ともいえます。家の中でのさまざまなお手伝いを通して、「一人前の大人はこうふるまうのだ」という社会常識や世の中の基本的なルールを身につけさせます。

◆10〜15歳……家の外でもまれる時期です。スポーツで言えば練習試合の時期です。本格的な大人扱いをして、大人になるために必要なことを教えていきます。

この時期に、大人になるためのトレーニングとして最も重要なものは、お手伝いです。お手伝いは「よく気がついて、やる気を持って行なう」「大変でも面倒でもやるべきことはやる」という能力を伸ばす練習であり、トラブルを乗り越える訓練でもあり、社会性を伸ばす優れた手段なのです。

子どもにお手伝いをさせない親は、「あなたにはできないからひっこんでおいで」とわが子をだめな子扱いしていることになります。不登校やひきこもりの子どもたちは、申し合わせたように、家庭でのお手伝いの経験が少ないのです。


ここまでの過程で、身につけておくべき能力が十分に身につかなかった場合、その程度に応じて、ひきこもりや不登校なども含めた問題が、この時期に表れてきます。15歳くらいに不登校が多いのも、このままでは一人前の大人になれないという、子どもたちが発する危険信号と考えればよいのです。

■子供を大人扱いすること

精神科や心理学系のカウンセリングでは、「学校・仕事に行けとは言わない」「本人の好きなようにさせて様子を見る」という指導が多いようですが、人間形成医学の立場ではひきこもりや不登校には「介入的、指示的」な対応で治療を行ないます。

なぜなら、ひきこもりや不登校はスポーツに例えれば、生き方のフォーム(判断と行動)についた「よくない癖」であり、トレーニング(行動療法)で修正をすることができるものだと考えるからです。

そして、その治療法としては、本人に「よくなりたい」という動機があることが大前提ですが、目標を設定して行動することを繰り返す、という行動療法・生活療法が基本になります。

ひきこもりになったのは、そうなるように育てられたからであり、本人の責任ではありません。また親のせいでもありません。親もそのように育てられたからです。つまり悪者さがしには何の意味もないのです。

それよりも、この先をどうしたいのか、どうなりたいのか、そのためにはどうすればよいのかを考えるほうが重要です。そこで大きなポイントとなるのが、「大人扱い」「筋を通す」「ケジメをつける」ことてす。

ひきこもりや不登校など、思春期に起こる子どもたちの間題は、大人に育つための仕上げの時期である10歳から15歳に、大人扱いされていないことが大きな原因とも言えるからです。

そこで大事なことは、親子が感情的になってお互いを非難したりせず、穏やかにざっくばらんに本人の将来について語り合えるようになることです。ざっくばらんになれることは、「親子関係の改善」になりますし、将来について話し合うためには過去と現在の間題を整理しなくてはなりませんから、それが親にも本人にとっても「自己洞察の援助」になります。

大人扱いの結果、「立ち直るために家族で頑張ろう」という話になったら、立ち直るための第一歩としての「当面の目標」を設定します。その内容は、本人の状況によりさまざまです。どのような目標であっても、その内容は、それが達成できれば、「立ち直る」という最終目標に一歩近づけるという「筋」に沿ったものでなくてはなりません。これが「筋を通す」ということになります。

当面の目標設定ができたなら、あとは「大変でも面倒でもやるべきことはやる」と「ケジメをつける」ことが必要になります。

以上が、行動療法・生活療法の基本的な考え方です。私たちの役割は、全体の流れがスムーズに進むような方針の指導と実行の調整が主なものとなります。薬も状況に応じて処方しますが、あくまでも補助的なものと考えています。

行動療法・生活療法により、本人が「同年代の人間の中でも一歩大人になったね」といえる状態にまで成長した時に、不登校やひきこもりは根治に至るのです。

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