■スギ花粉症の減感作療法

1.減感作療法の基本的な考え方

減感作療法はアレルギー疾患の根治を目指す治療法です。スギ花粉症だけではなく、喘息・食物アレルギー・蜂アレルギーなどの治療にも用いられます。 アレルギーの原因物質(抗原)を症状が出ないごく少量から患者さんに投与して、一定のペースで治療効果が現れる「維持量」まで増量し、維持量になったらそれ以上は増量せずに投与を続けます(維持療法)。 継続的に抗原を投与することにより、過剰な免疫反応(=アレルギー)を調整して症状を抑え、アレルギーを「根治させる」ことを目指す治療法です。免疫療法とも呼ばれます。 喘息や蜂アレルギーでは注射法で行われることが多く、食物アレルギーでは「経口的減感作療法(経口法)」といって少量ずつ食べ続ける方法で行います。スギ花粉症では、スギ花粉のエキスを用いた注射法または舌下法で行います。

2.スギ花粉症の減感作療法

注射法と舌下免疫療法(舌下法)の二つの方法があります。
①注射法
従来から行われている方法で、スギ花粉エキスを皮下注射して行います。
治療開始時には0.002JAU(JAUはアレルギーエキスの濃度の単位です)という極めて少量から注射を始めます。そしてエキスを毎回増やしながら、週に1回(急ぐ場合は週2回)のペースで注射を続け、1回あたり6~60JAU程度の量で「維持量」にします。
その後は維持量のまま2週間から月に1回の間隔で注射を続けます(維持療法)。維持療法の継続期間は3~5年以上が好ましいとされています。
維持療法中も、シーズン前(12月から年明けごろ)には注射の間隔を週一回にした方が効果は高まります(シーズン前減感作)。
定期的な通院(週1回から月1回)が必要で、多少の痛みを伴い発熱時には注射できないなどの欠点もありますが、小児でも(3歳頃から)実施できるというメリットがあります。

②舌下免疫療法(舌下法)
注射ではなく、スギ花粉エキスの水溶液を舌の下(舌下)に滴下して2分間留めてから飲み込みます。口腔粘膜からエキスを吸収させる方法なので、経口的減感作療法(経口法)と区別して「舌下免疫療法(舌下法)」と呼ばれます。
エキスは毎日自宅で服用します。2週間の増量期のあと維持療法に入り、毎日2000 JAUのエキスを舌下投与します。維持療法の期間は注射法と同じ3~5年間で、その間毎日舌下投与を行います。
痛みもなく自宅で治療ができるので便利ですが、12歳未満では実施できないとか、エキスを舌下する前後2時間以内は激しい運動・入浴・飲酒を控えるなどの制約もあります。

3.減感作療法の効果

①注射法の効果
(1)スギ花粉の大量飛散年には「薬がないと生活困難」なほどの重症例でも、治療開始後にはスギ花粉の大量飛散年でも「まったく無症状」な人が13.6%、「症状はあっても軽く薬がなくても何とかなる」人は79.6%でした。93.2%までの人が快適に暮せるようになっていました(久徳クリニックのデータ・2009年)。
(2)維持療法のエキス量を1回あたり200~600JAUまで増量した場合には、5年経過時点で35.5%までの人が「2シーズン以上無症状」になり、その時点で減感作療法を中止した後の再発率は4.7%と報告されています。
(3)減感作療法を3年以上続けた場合には、中止後も4~5年間は80~90%の効果が維持されることがわかっています。
(4)小児期のスギ花粉症に減感作療法を2年以上実施した場合には、成人後も76%の人に症状の消失・改善が認められます。1年未満の実施期間では成人後の改善率は16%でした。
(5)小児のアレルギー性鼻炎に減感作療法を実施することにより喘息への移行が予防できると報告されています。アレルギー性鼻炎で減感作療法を3年間実施したグループでは、その後の喘息の発症率が24.1%でしたが、実施しなかったグループの発症率は44.4%でした。

②舌下法の効果
2012年のデータでは、「まったく無症状」な人が5.4%、「症状はあっても軽い」人は72.5%でした(エキス製造メーカーのデータ)。

4.注射法と舌下法の治療効果の比較

注射法と舌下法の効果の比較です。
同一年度のデータがなく、注射法は2009年の久徳クリニックのデータ、
舌下法は2012年の製造メーカーのデータになります。
グラフの下の数字は症状の強さで、基準は次の通りです。



0: 全く症状なし。気分は「晴れ晴れ」。
1: 花粉が飛んでいることを「感じる」が不快な症状はなく薬
(ステロイドの目薬とか点鼻薬)はいらない。
2: 症状があり薬があれば助かるが、なくても何とかなる。
3: 症状が強く快適に暮すためには薬が必要。ないと不安。
4: 症状が極めて強く集中困難。薬が手放せない。
ないと生活困難。気分は「泣きたい」。

グラフからは、注射法と舌下法の治療効果はほぼ同じように見えますが、2009年がスギ花粉の大量飛散年(3737個/cm2/シーズン)であったのに対し、2012年は少量飛散年(1256個/cm2/シーズン)でしたから、注射法の方が治療効果は確実であるといえます。
維持療法中の使用エキス量も、注射法の維持量が1ヶ月あたり6~120JAUであるのに対し、舌下法では1ヶ月あたり60,000JAUという大量のエキスを使用します。この点からも治療効果は注射法の方が確実で優れているといえます。

5.副作用

副作用は注射部位にのみ現れる局所反応と、全身性の症状が現れる全身反応があります。
注射法の代表的な局所反応は注射部の発赤(赤くなる)と腫れです。ある程度注射エキスが濃くなってから現れてきます。局所反応は治療効果の現れともいえますから、発赤が直径3㎝前後で3日以内に治まる程度でれば、「程よい効き加減のしるし」であり心配はありません。局所反応が「5㎝以上3日以上」になったら注意が必要です。必ず医師に報告して下さい。
注射法での副作用の出現率は1.4%程度で、喘息の発作誘発、注射部位の発赤、痒みなどが起こります。重症な副作用であるアナフィラキシーショックの出現は二百万回の注射に1回程度といわれています。              
舌下法では口腔内の痒みとか腫脹などの軽い局所性の副作用が13%程度出現します。アナフィラキシーショックの出現率は「極めて低値」とされています。


このページの作成にあたっては、以下の先生方のデータも参考にしています。
奥田実・馬場廣太郎:日本医師会雑誌119巻第4号1988、福田博国他:日本医事新報3907号1999、岡本美孝:メディカル朝日2006年1月号、大橋淑宏:日本医師会雑誌136巻第10号2008、